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中小企業の事業承継で考えたいM&A。どんな種類がある?

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(画像=Lipik Stock Media/Shutterstock.com)

経営者なら誰でも、いずれ必ず直面するのが「事業継承」や「後継者問題」です。これまで地道に築き上げてきた会社の継続を望んでも、中小企業の場合は後継者不足などから休業や廃業に至る場合が多々見受けられます。

中小企業庁の「中小企業の事業承継に関する集中実施期間について (事業承継5ヶ年計画)」よると、70歳代と80歳代の経営者の中で、すでに事業承継の準備をしているのは半数以下。また、60歳以上の経営者中で、50%超が廃業を予定。特に個人事業者では約7割が「自分の代で事業をやめるつもり」と回答しています。

そこで事業承継の選択肢として、別途考えられるのが「M&A(企業の合併、買収)」で、中小企業には有効な対策の一つです。方法はいくつかありますが、業務の形態や事業モデルによってその方法は変わってきます。今回は、主に中小企業向けの株式譲渡、事業譲渡、吸収合併と吸収分割の3つを紹介します。

M&Aで事業承継を行う際の種類

1. 株式譲渡

M&Aで最もポピュラーな方法は「株式譲渡」で、中小企業のM&Aでは株式譲渡が用いられることが一般的です。経営者(売主、株主)が所有する株式を、事業を譲り受ける買主に売却し、対象企業の経営権を移転させる方法。会社は従来通り運営され、原則として特許権や許認可権なども存続します。メリットは経営者が持つ株式を現金化でき、手続きが他のM&Aより比較的簡易でスピーディーであることです。

売主は買主に株式を譲渡し、買主は売主に対価(金銭)を支払うという簡単な取引で、これで対象会社の株主が売主から買主に代わります。

注意すべきは、株式譲渡では100%ではなく50%を超える株式(議決権)だけで会社の支配権を獲得できます。ただし、中小企業では他の株主の妨害などを避けるため、100%の株式譲渡が基本となっています。

2. 事業譲渡

譲渡する会社(売主)が一部または全部の事業を、譲り受ける会社(買主)に売却する方法。複数の事業を展開している会社が、特定の事業を売却し、他の事業は残す場合に最適です。買主にとっても、必要とする特定の事業だけを譲り受けることができるのでニーズは結構あり、中小企業には事業譲渡のメリットは大きいと言えます。

ただ、雇用関係や契約関係、債権債務などは個別の事業ごとに権利義務関係を引き継ぐので、株式譲渡に比べると煩雑な手続きがデメリットになります。売主は会社で、株主ではないので、買主はその対価を対象会社に支払うのが「事業譲渡」です。株主に変更はありません。

大きなメリットは、買主が簿外債務を引き継ぐことを防げることです。特定の事業だけを引き継ぐので、帳簿に記載されていない簿外債務の引き継ぎを防ぐことができるのです。対象企業への資産調査であるデューデリジェンスにはかなりのコストが必要ですが、これならかなり抑えることが可能です。

煩雑な手続きとしては、社員や取引先がある程度多いケースでは、事業譲渡により対象となる社員は元の会社を一旦退社し、新会社と雇用契約を結び、入社し直します。契約類はすべて買主の名義に変更してビジネスを継続するので、新規で再契約となります。基本的に、取引先の場合も同じです。

3. 吸収合併と吸収分割

事業を譲り受ける買主の法人格だけを残し、譲渡する会社(売主)の法人格が消滅するのが「吸収合併」。資産と負債のほか、社員、営業の許認可権などすべてを買主が承継します。社員の雇用形態や勤務条件をはじめ、資産や負債に関する事務処理については両社間で合意が必要。交渉次第では、手続きに時間を要するケースも出てきます。

「吸収分割」は複数の事業を展開する会社(売主)が、全事業または一部の事業を買主に承継させます。事業譲渡と異なるのは、承継会社(買主)がM&Aの時に対価を株式や現金にすることもできる点。買主から対価として株式を受けることで売主は承継会社に資本参加でき、対価を現金にすれば実質的には事業譲渡に近い形となります。

M&Aだけでなく社内の制度を整えて円滑な継承を実現する方法もある

中小企業の事業承継ではM&Aで経営を他社に委ねるほか、後継者をどうするかで2つの選択肢があります。

1. 後継者が親族のケース

後継者が親族内にいる場合、経営者としての育成と株式の移転が課題です。各部門の業務を経験させ、経営者としての能力を身に付けさせ、育てます。不足する部分をサポートする人材など、組織の受入れ体制を整え、事業を引き継ぐ準備が重要です。

また、不採算事業を整理して損失を計上し、役員退職金を支給するなどで、一時的に下がった株価を見て株式を後継者に譲渡や贈与することなど効率的に株式の移転を準備します。相続が発生した場合には、事業承継税制の適用で一定額の相続税を納税猶予することもできます。

2. 後継者が親族外の従業員や外部招聘のケース

後継者が親族内にいない場合、従業員や外部から後継者を選ぶ方法もあります。従業員のケースなら社内での反発は比較的少ないですが、課題は経営者としての素質を持った従業員です。経営の素質があっても、外部からの後継者の場合、従来とは異なる経営や理念などで思わぬ反発が社内に生じることもあり得ます。

どちらの場合でも、後継者に株式をどう承継させるかという問題があります。一般的に、従業員や外部からの後継者候補は株式を買い取る十分な資金が不足しています。金融機関の支援やファンドの活用を検討することも不可欠です。

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