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社員が仕事にワクワクする姿を実現する方法~元リッツ・カールトン日本支社長 高野登氏 特別講演~

6月20日(水)に行われた「あしたの人事クラブ」第8回交流会では、2名のゲストをお招きしての特別講演を実施いたしました。まず登壇したのは、元リッツ・カールトンの日本支社長であり、現在は人とホスピタリティ研究所 代表として活動する高野登氏。‟クレド経営”で有名なリッツ・カールトンで多くのスタッフを率いてこられた高野さんは、経営・人事のあるべき姿をどのようにお考えなのでしょうか。講演の様子をダイジェスト版でお届けします。

【Profile】
高野 登(たかの のぼる)
人とホスピタリティ研究所 代表
1974年に渡米し著名ホテル勤務を多数経験。その後リッツ・カールトン日本支社開設に携わり、94年には日本支社長に就任。2009年退社後、「人とホスピタリティ研究所」を設立。著書に『一流の想像力一仕事の感性が磨かれる56のヒント』『リッツ・カールトンで実践した働き方が変わる「心の筋トレ」』等。

人や組織は“動かす”ものではなく、‟動く”もの。従業員の主体性を潰してはいけない

本日は、あしたのチーム社の主催セミナーということで、同社が掲げる「はたらく人のワクワクをクリエイトする」というキーワードに繋がる話をしたいと思います。私があしたのチームの取り組みを素晴らしいと感じるのは、「仕事とは本来ワクワクするものだ」という考え方に基づいているから。それは、私が長年働いてきたリッツ・カールトンでも言われ続けてきたことなのです。

リッツでは、全従業員が常にふたつの問いを投げかけられます。ひとつは、「自分に誇りを持って働き、人を幸せにできましたか?」。もうひとつは、「あなたという存在のどんな部分が周りを幸せにしていますか?」です。つまりこれは、「あなたはどんな価値を生み出していますか」という問いかけ。‟あなたで良かった”と言われるような仕事には、その人ならではの価値がありますし、それが実現できたときに人は自分の仕事に誇りを持て、働くことにワクワクするはずです。

それを経営や人事の視点で言い換えるならば、スタッフ一人ひとりがワクワクできるような環境・仕事のステージを用意することが重要だということ。自社で働く人たちを思い浮かべてみてください。決められたことをやるだけの‟作業員”になっている人はいないでしょうか。

リッツ・カールトンのスタッフがなぜ高いホスピタリティを発揮できるのかと言えば、全員が主体的に動いているからです。リッツの考え方の基本は、「人や組織は、動かすものではなく動くもの」です。一人ひとりが胸に秘めている“相手に喜んでほしい”、“困っている人を助けたい”、“もっと成長したい”…という気持ちを引き出すことで、ホスピタリティを高めてきました。極端な言葉でお話するなら、「自社の従業員のポテンシャルを、ナメてはいけない」のです。

その考えを象徴するように、リッツ・カールトンを創立したホルスト・シュルツィは、全従業員に1日2000ドルまでの経費を自己裁量で使える権限を与えました。しかしこれは、湯水のように経費を使ってお客様をもてなそうということではありません。お客様のために精一杯動いて、必死で知恵を絞って考えて導きだした手段を、「費用が高い」とか「社内承認に時間がかかる」といった理由で潰さないため。スタッフの主体性が大きな価値に結びつくと信じているからこその2000ドルなのです。

長野の食品会社に、毎年3,000名以上の就職希望者が殺到する理由

では、スタッフの主体性はどうしたら養われるのでしょうか。ここで、ある企業を事例としてご紹介しましょう。長野県にある伊那食品工業という会社は、従業員500名ほどの企業。寒天の製造が主な事業であり、新卒採用は例年10~15名程度です。しかし、この会社には毎年3,000名を超える学生が応募しており、一時期は8,000名もの応募があったそう。なぜ地方にある寒天の会社が、就職先としてこれほど人気なのでしょうか。

私も師と仰いでいる同社の塚越寛会長は、「いまだに理由が分からない」と冗談交じりにおっしゃいます。しかし、社員のみなさんに言わせると「これだけ会社にやってもらったら、頑張って働くしかないです」という意見。同社では県外から入社した社員のために、年2回の里帰り費用を会社が全額負担しています。また、年1回の旅行費用も会社負担。表層的には、福利厚生の充実が人気の秘密のように思えますが、真の理由は会社の根底に流れる考え方と一つひとつの戦略方針が一貫していることだと、私は思います。

たとえば、「300年先も製造業として存続し続ける」ために、利益の10%を研究開発費にあてていること。一般的には数%のところ、これだけの費用を投じることに経営メッセージと戦略の一貫性を感じますし、社員のみなさんもそれを感じ取っているからこそ、自由な発想で寒天の未来を模索できているのです。同社では、寒天でつくったゴルフボールも誕生。これは、“自然に還る素材ならボールを回収しなくても環境破壊にならない”という発想で開発され、「航海中のクルーズ船から海に向かって思い切りボールを飛ばす」という新しいレジャーの創造にも繋がっています。

また、伊那食品工業では働いている社員だけでなく、採用で応募のあった人たちへの姿勢も一貫しています。毎年3,000名以上の応募があるため、残念ながら採用できない2,980名以上に不合格通知を出さねばなりませんが、その全員に手書きのお詫び状と同社の運営施設で使えるコーヒー券を送付しているそう。つまり、自社と接点のあったすべての人に真摯に向き合っているからこそ、毎年多くの不採用者を出しているのにも関わらず、ファンを増やし続けているのです。

私は、このような「会社に関わるすべての人にとって良い会社でありたい」という同社の姿勢に、リッツ・カールトンのホルスト・シュルツィの考え方と共通点を感じました。両社は文化や業種こそ異なりますが、「あるべき未来を実現するために、社内の仕組みや社員の働き方をデザインしていく」という発想で会社を運営しています。そうした考え方があるからこそ、働く一人ひとりに主体性が根付き、お客様を幸せにするという連鎖が生まれているのだと思います。

従業員満足ではなく、従業員エンゲージメントに着目してほしい

ここまでお話した通り、人は仕事にワクワクしているときに大きな価値を創造するもの。しかし難しいのは「他人から与えられるワクワクでは上手くいかない」という点です。たとえば、単に社員の給料を上げたとしても、上げた瞬間は嬉しいかもしれませんが、しばらくするとその金額が当たり前になってしまいます。これはお客様にとっても同じこと。安易に値下げをしてもお客様が喜ぶのはその瞬間だけで、更に価格を下げなければ喜んでもらえなくなります。つまり、ワクワクとは内発的なものでなければ長続きしないということ。表層的にESやCSといった満足度を追求するだけでは、会社は潰れてしまうかもしれません。

これから重要になっていくのは満足度ではなくエンゲージメント。会社とスタッフの繋がりの強さに着目していかねばなりません。ではエンゲージメントが向上するには何が必要なのでしょうか。リッツ・カールトンの手法をヒントにするならば、「私たちは何を売っているのか」「私たちの価値は何なのか」と社内で繰り返し会話することです。

自分たちならではの価値を定義・自覚し、その価値に集中しなければ、「自分たちだけのお客様」を創造することができません。言い換えるならば、同業他社とお客様を奪い合う戦いに身を投じるしかないということ。熾烈な価格競争や競合を出し抜く仕事ほど“楽しくない仕事”はありません。仕事にワクワクするには、他の誰にも真似できない価値を獲得し、その価値を生み出すプロフェッショナルとして働くことが必要。だからこそ、常日頃から自社や自分自身の価値について意識し、対話し続けることが大切なのです。

また、21世紀に生きる私たちが迎えようとしているのは、AIやロボットが急速に普及する未来。このシンギュラリティ(技術的特異点)は、間違いなく人の存在価値を揺るがします。たった1台のコンピューターが、全人類が束になってかかっても歯が立たないほどの計算能力を保有する時代。もはや価格やスピードや量で勝負しても、人は機械に勝てません。

では、人はどんな価値を発揮して仕事にワクワクするべきかと言えば、「夢を見る力」ではないでしょうか。機械やAIは、過去の経験から未来を予測することはできても、ゼロから新しいものを創造することはできません。夢を語ったり、夢に共感したりするような人としてのクリエイティビティこそ、価値の発揮しどころだと思います。

更に言えば、これからの時代において会社のリーダーたる経営者に求められるのは、ロボットやAIのような強力な仕組みと、スタッフが持つ人ならではの感性を組み合わせることで、オリジナリティを発揮すること。そのためには3つの覚悟が必要です。ひとつめは、「自社の社員を勇気づけ続ける覚悟」。ふたつめは、「社員に向き合い、感謝し続ける覚悟」。そして最後は「社員に共感する覚悟」です。この3つの覚悟を胸に社員に接していれば、人が育たない訳がありません。もちろん、あしたのチーム社が推進しているような人事査定や評価も重要ですが、この3つの覚悟を持って会社を運営することこそ、企業価値を高める前提になるはずです。本日はありがとうございました。

 

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